「スペックエスパスかける人」 第3回 漆塗り職人 廣瀬さん「誰かにとっての必需品 その2」

07 October 2022

「スペックエスパスかける人」 第3回 漆塗り職人 廣瀬さん「誰かにとっての必需品 その2」

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『丸廣意匠』の廣瀬さんは、県内外から注文が舞い込む、

いま注目の漆塗り職人さんです。

伝統工芸やメガネ産業の会社が集まる

福井県鯖江市の河和田に工房を構えています。

オプト.デュオとは目と鼻の先にあり、

共に、ものづくりに向き合う仲間です。

河和田地区は火災や風水害に見舞われることが多いため、

廣瀬さんは8年前から地元の消防団の活動に参加しており、

日頃の厳しい訓練にもヘルメットとスペックエスパスを

装着して臨んでいるとのこと。

そんな廣瀬さんが、今どのようなことに取り組んでいるのかを探りました。

 

問屋からいただく仕事の中で、

時には最初からセール品を依頼されることもあります。

それは昔から業界の慣習としてあることですが、

初めから安い値段で造らなければいけないことや

その割には納期が厳しいことに

疑問を感じてしまうこともしばしば。

自分が稼業を受け継いでからは、

どうしたら若い人に引き継いでもらえる仕事になれるのか

どうしたら人の目に留まり、

心にささるモノを造ることができるのかを

真剣に考えるようになったといいます。

 

そんな疑問や悩みの解決の糸口となったのは

新しい色への挑戦でした。

『丸廣意匠』が力を入れている「MARUHIRO SPRAY」は、

使われなくなった漆器や木地のようなデッドストックに再塗装して

新しいものに生まれ変わらせるプロジェクトです。

とてもカラフルで、漆の常識を覆すような斬新な配色を

施されているのが特徴で、そのデザインは

東京のデザイナーが担当しています。

一点モノを扱うため、細かな色の指定があり

廣瀬さんは一つの商品のためだけに、新しく塗料の配合を考えます。

 

ー「昔は、漆塗りと言えば伝統的な赤(朱)や黒ばかりだったのですが、ここ4、5年前からはいろんな色や技術に挑戦して、塗装の持つ可能性を探っています」

 

 

内側の金粉がはがれてボロボロだった江戸時代の高杯を再塗装。1本の木から全体を刳り出して造る1本式で造られ、150年以上経った今も形に狂いがない。

 

オプト.デュオの山岸社長にも商品カラーへのこだわりを聞いてみました。

ー「海外ウケする色があるように、メガネの新作を出す時には、若い方や女性だとか、購買層によって色の組み合わせを計算しています。色はラインナップの見栄えやバランスの良さを左右するものなので、色決めには神経を使いますね。時には黒を外してみたり、売れないとわかっていても販売するカラー(捨て色)もあるんです。全色を売りたくても、国や世代、流行りによってニーズが変化するので、AI技術で売れるカラーをはじき出してほしいぐらいです・・・」

 

カラーの次に廣瀬さんが挑戦したのは

材質にこだわらずいろんなものに塗装すること。

ある時、廣瀬さんは売れずに残っていた商品(靴)の

再塗装を依頼されます。

このことがきっかけとなり、強度が増すような塗料の使い方や

より優れた化学塗料を模索し始めました。

―「当然、漆器も大事にしていますが、全く違うものに塗布して新しい命を吹き込むことに可能性を感じて、今は木材というよりも塗れるものを探していると言ったほうが早いかな。古いものやゴミ同然のものなど、すでに造られたものに、新しいデザインの命を吹き込んで、本当に世の中に戻るのかという実験をしています」

 

 

古くなった娘さんの鞄をおしゃれに再塗装したもの。従来よりも耐久性のある鞄に変身させることができた。

 

 

実験的に塗装したペットボトル。化学塗料は素材を選ばないから面白いのだそう。

 

また、河和田の工芸イベントRENEWへの参加も、

この仕事に興味を持つ若者がどれだけいるのかを知る実験だといいます。

4年間参加した結果、一般の人に工房を見学してもらう機会が増えて

塗装をやってみたいと言ってくれる若者も現れました。

 

―「プロジェクトを始めた頃は、誰も見向きもしないものに塗っても売れるわけがないと、周囲から笑われました。捨てられて同然のものでも、今は少しずつ世の中に戻っているという実感が湧いてきました」

 

最近では、作品がひとり歩きするまでになり

全国紙に掲載されたり、黒龍が手掛ける複合施設『ESHIKOTO』内の

飲食店でも食器が使われています。

 

ー「僕の知らないうちにお仕事が生まれている。誰かが情報発信してくれて、見た人が僕に辿り着いちゃう。その意味でもこの世界に可能性を感じます」

 

扱っているデッドストック品は、同じものは一つとなく

例え古くても職人技が光る貴重な品物ばかりです。

廣瀬さんの日常でスペックエスパスが欠かせないものであるように

新しい使い手にとって「必需品や宝物になってほしい」と願いつつ、

リメイク品を世に送り出しています。

 

 

廣瀬 康弘さん

1976年鯖江市生まれ。2009年に漆器問屋の営業職を退職後、父が創業した「マルヒロ漆器」を引き継ぐ。その後、2019年に「丸廣意匠」と屋号を変え、木製品を中心に機械で塗料を吹き付けるスタイルに変更した。漆塗りの伝統を大切にしながら、化学塗料の可能性を広げている。

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