つくり手とお客さんをつなげる小売店 第4回 なくてはならない関係

31 May 2022

つくり手とお客さんをつなげる小売店 第4回 なくてはならない関係

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近年ではおしゃれアイテムの一つとなったメガネも、昔は白衣を着た店員さんがメガネを販売していました。正確な視力検査や、フレームに合わせてレンズをカットしたり、お客様の顔に合わせてメガネを調整するフィッテイングなどの専門的な技術が必要とされる職業だということが、白衣から読み取れます。1990年代になると、同じく視力矯正の役割を持つコンタクトレンズが、おしゃれを楽しむために欠かせないものとして台頭し、メガネの需要が減少した時代もありました。

今回は、『田中眼鏡本舗』の田中さんとオプト.デュオの山岸社長に、消費の原点に立ち帰って、ユーザーが求めるメガネの価値やお互いの関係について語っていただきました。


田中昌幸 氏
福岡県出身。眼鏡量販店で販売を経験後、福岡から福井に移住し、約20年前に『田中眼鏡本舗』をオープン。
福井はメガネでいうところの「シリコンバレー」

田中さんは「東京に出店しないの?」とお客様に聞かれる度に、「ここにいるほうが面白いんですよ」と答えるそうです。
「僕はあえてここ(福井)以外は地方と呼んでいます。東京でも入ってくる情報は遅いし、刺激も少ないです。でも、ここにいればメガネの最新情報を取りに行かなくても、集まってくるわけですよね。メガネでいうところの福井はシリコンバレーというか。だから何年経ってもメガネを分かり切ったことにはならないんです。メガネにかかわっている以上はここにいるのが一番楽しいし、鯖江のメガネが日本一だと心の底から思っています」

鯖江産のメガネをエンドユーザーに知ってもらうためには

そんな福井県で、良いメガネの価値がわからない人が多いとしたら「僕ら小売店の責任だ」と田中さんは話を続けます。「鯖江のメガネの優位性や他との違いについて、メディアの力に頼らずとも、本来は小売店がエンドユーザーにしっかりと届けなければいけない」ともおっしゃっています。
現にユーザーから「毎日使っているけど、かけ心地の良さは全く変わらない」と言われ、軽さとかけ心地に定評があるスペックエスパスも、使い続けて初めてその価値を実感してもらえます。だからこそ、小売店はフィッティングに時間をかけて、ユーザーに末永く愛用していただけるように努めます。
「エスパスはフィッテイングに関しては他のメーカーに比べて、割と手がかからない構造です。ただ、最近はメガネが触りにくい。やってみたことあんのー?っと思うぐらい複雑で・・・」(横にいる山岸社長をちらっと見る)
メガネ自体の機構は変わらなくても、メーカーはユーザーが求める以上のものを出していく必要があり、いろんなデザインに挑戦していくうちに複雑になってしまうこともあるようです。

距離が近い関係だから言えること

現在は、最初のモデルと比べると遥かにかけ心地が良くなったエスパスのヒンジレスフレーム。ストレスのないかけ心地は、小学生からお年寄りまでの幅広い層から支持されています。しかし、ブランドが生まれたばかりの頃は、耳にかけるラバー部分が抜けやすかったり、傷みやすいといったお客様の意見もありました。オプト.デュオは小売店を通してお客様からの情報を入手して、改良を重ねてきました。

田中さん
昨年のモデルと今年のモデルを比べても見た目が変わらないぐらい、エスパスのデザインはもうイジりようがないところまで来ています(完成されている)。それでも、メガネの調整でときどきご来店される年配のお客様は、エスパスのコーナーを見て「どれが新しいの?」とちゃんと質問してくれます。それだけ新しいモデルの発表を心待ちにしてるんですね。

山岸社長
構造上の問題を工夫したり、柔らかさや力の逃げ具合を変えてみたりして、改善点を見つけては日々改良していますね。わからないうちにアップデートして、昇華して、それが定着する。そういう努力は、ブランドを拡張していくための外に向けたアピールにもなりますし、やはり商品を扱ってくれるお店の意見は大切ですね。

田中さん
彼ら(オプト.デュオの3人)とは距離が近いから、僕からもときどきダメ出しするんですね。でもそれは、期待していることの裏返しだと理解していただければ・・・。コレクションごとに新作を出すんですが、全てを認めてもらえる訳ではなく、ここはちょっと違うんじゃないかって、ちゃんと言います。だから絶対、面倒くさいヤツ!と思われてるはず。

山岸社長
いえいえ。スタッフのみんなが田中さんに認められたいと思っているので(笑)。

今後のトレンドはどうなる?

デザインの流行りは、ある周期で繰り返されるといわれています。例えば、70年代や80年代の流行をそのまま現代に活用しても、やはり古臭く感じてしまうもの。それをメーカー側が噛み砕いて、今起きているトレンドに色や形やサイズ感を合わせるなどのプロセスを踏んで、消費者が新鮮に感じる製品になります。そこで、日頃から様々なアンテナを張っているメガネのスペシャリストのお二人に、気になる今後のトレンドについてうかがいました。

田中さん
クラシカルが主流で、丸いシェイプでサイズが大きめなものがまさに今、流行っているんで次は小さくなるか、四角くなるか。三角形のメガネは歴史上存在しないから、僕は今度は四角くなると思う。
僕らも商売なのでトレンドを主流に置きますが、あんまり市場に魂を売ったような販売方法をしてると自分の中で嫌なんです。だから、たまに突出したデザインのメガネが並んでいたりするのは、僕らのガス抜きです。

山岸社長
エスパスはトレンドとは違うんですが、そこをお客様に選択していただくのが我々の使命だと思っています。そうは言っても、トレンドを意識している人からも支持していただけるように、レンズシェイプにはクラシックテイストなものを加えたりしています。

田中さん
メガネって僕はすごく重要だと思っています。メガネ一つで仕事ができる印象を与えたり、温かくて優しい雰囲気にもなります。だから、髪型よりも洋服よりも大事なんじゃないかな。ましてやマスク時代にはなおさらです。

メガネの価値とは

では、田中さんにとって価値のあるメガネとは何でしょうか。
「僕自身は愛用しているメガネは1本なんです」
「人にはメガネって洋服で変えるよねって言いながら、ここ4、5年は同じメガネ(少し特殊なメガネ)を使っています。メガネはレンズ自体に傷が入ったりすると交換しないといけないけど、大事に使ってもらえれば大袈裟じゃなくてメガネは死ぬまで使えるもの。納得したものを何本も持っていただいて、時にはメンテナンスをしながら、大事に使うことに価値があると思っています」
良いモノというのは、共に過ごしてきた時間が長くなるほど、自分にとって特別なものとなります。新しいものが、必ずしも豊かな気持ちにさせてくれるとは限らないときもあります。

接客する立場から、田中さんはこうも話しています。
「買ってすぐどうにかなったり、壊れるようなメガネだと、そのブランドよりもお店がダメだとレッテルを貼られてしまう。そういうのはマイナス要素なので、アフターもきちんできて、安心してユーザーに届けられるのは重要なポイントです」
例えば、エスパスのヒンジレスフレームの場合は1枚のチタンをくりぬいて造られていまが、初代の型は年月が経つと少しずつ劣化が起こり、チタンの上からかけたメッキが部分的に剥がれてくることがあります。すると、今度はわざとメッキを全部を剥がしてチタンを剥き出しにする作業をします。そのようなメンテナンスをして、そこからまた10年以上愛用するエスパスユーザーもいらっしゃるそうです。

インターネットが普及していなかった時代は、モノの価値は製品力とメディアの力で形づくられていました。しかし、モノが溢れている今の時代では、一方的なメーカーからの情報よりも、同じ感覚を持つSNSユーザーの情報に依存したり、自分が信頼できる人からの意見に左右される傾向にあるのです。だから、造り手であるメーカーにとって、製品の価値を上手く消費者に伝えてくれる小売店は、とても心強い存在です。

常に最先端のデザインを生み出すメーカーと、決して通信販売をしない小売店。
両者の進む方向は違うように見えて、実は同じ。メーカーと小売店が一つとなり、共にブランドの価値をつくり出すという経験を20年近く積み重ねてきました。お客様にメガネを楽しんでもらうことを一番に考えている、互いにマストな関係です。


『田中眼鏡本舗』
ジャパンメイドの商品のみを取り扱い、県内外のこだわりの強いお客様から支持される。鯖江市の『田中眼鏡本舗 浪漫堂』は系列店。
福井県福井市新田塚町701-2N ファインシティビル1F
TEL.0776-28-2515
水曜、木曜定休

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